Wizardry Daphne

ウィザードリィ誕生秘話 
‐創作の鎖の源流‐

ロバート・ウッドヘッド
ROBERT WOODHEAD
ロバート・ウッドヘッド
金山 圭輔
KEISUKE KANAYAMA
はじめに

ドリコムはWizardryシリーズとしては13年ぶりとなる完全新作DRPG「Wizardry Variants Daphne」をリリースに向けて最終開発中。伝説的なタイトルの再始動に際し、同タイトルのディレクターを担当している金山圭輔からWizardryシリーズの生みの親、ロバート・ウッドヘッド氏へお話を伺うことができた。ロバート氏からは、これまで語られなかったWizardry誕生の経緯と成功の要因、そして新しい挑戦への期待が語られた。

略歴

ロバート・ウッドヘッド氏プロフィール

ゲームクリエイター、ソフトウェア開発者。コンピューターRPGの始祖の一つと言われる『Wizardry』を故アンドリュー・グリーンバーグ氏と共に製作した事で知られる。Wizardry1に登場する狂王Treborはロバート氏の名前を逆にした綴りであり、本人もファンからは狂王と尊敬を込めて呼ばれている。現在は日本のアニメや映画を北米に広める企業、AnimEigo(アニメイゴ)を経営している。

金山圭輔プロフィール

2011年にドリコム入社。20年以上にわたり、ゲームの開発に従事。前職(アクワイア)では和物アクションゲームをはじめ、『AKIBA’S TRIP』(アキバズトリップ)などを企画・ディレクション。ドリコムでは『ダービースタリオン マスターズ』をはじめとする数々のスマートフォン向けタイトル開発に企画・ディレクターとして参加。

ゲーム制作より以前から、自分は日本に惹かれていた‐ロバート氏と日本との関係
Wizardry Variants Daphneディレクター:金山圭輔(左) Wizardry原作者:ロバート・ウッドヘッド氏(右)

金山:改めまして、今回は遠くアメリカから日本までお越し頂き本当にありがとうございます。ゲームの歴史の一部ともいえる方とお会いでき、大変光栄です。

ロバート:こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。
  日本は自分にとって馴染み深い国です。ゲーム制作から離れた後は日本のアニメや映画に英語字幕をつけてリリースすることを仕事としてきましたので、年に一度は日本に来る生活をずっと続けていました。
近年はコロナ禍によって、来ることができませんでしたが、ちょうどコロナも落ち着いてきたタイミングで声を掛けて頂き、久しぶりに日本に来れて嬉しく思っています。

金山:Wizardryでも日本の要素は印象的に使われていますよね。忍者や村正などが活躍することも、日本でWizardryが人気がある理由の1つと思っています。ロバートさんと日本との関係をもう少しお聞きしても良いでしょうか?

ロバート:ゲームに日本的な要素を入れたのは自分が初めてという訳ではありませんが、ゲーム作りを始める前から自分は日本に惹かれていました。僕が日本に対して本格的に興味を持つようになったきっかけは、大学時代に出会ったテレビのミニシリーズ『将軍 SHŌGUN』(三船敏郎、島田陽子主演)です。このシリーズはアメリカで非常に人気があったので、Wizardryに日本のものを追加するのはクールなことだと思いました。Wizardryが発売されてからは日本に招かれることも多く、その時の通訳を担当してくれた女性と結婚し、今も字幕の制作や会社の経営を一緒にやっています。

金山:ありがとうございます。大変親近感が湧きます。

40年超を経てDaphne誕生へ‐創作者が紡ぐ鎖の連鎖

金山:自分はまずスマートフォンで3DダンジョンRPGを作ろうと考えて、新しいゲームの制作を始めたのですが、色々な幸運が重なりWizardryの最新作を作らせて頂くことになりました。ロバートさんが最初のWizardryを作られてから40年以上が経った今、新しいWizardryが生まれることをどう思われますか?

ロバート:とても嬉しく思っていますよ。
  自分は創作という行為の歴史をよく鎖に例えています。創作者は先人の作品から学び、影響を受けたことを自分の作品へと反映します。そして、それがまた次の創作者に影響を与えていく。そういった連鎖だと思っています。自分が若いころに作った作品から影響を受けた作品を、今もこうして作ってもらえる。自分は本当に幸運だと思っています。
  僕はWizardryからは離れて久しいですが、自分が離れて以降のWizardryはそれぞれのチームが自分の信じるものを作るべきだと考えています。だから、金山さんにも自身の感覚を信じて作って欲しいと思います。
  新しいWizardryを応援しています。

金山:ありがとうございます。とても勇気づけられます。先日頂いたDaphneへの応援メッセージでも、鎖に例えたメッセージを頂きましたね。ゲームが生まれたころの素晴らしい時代の空気が伺えて感動的でした。自分もそういった鎖の一つになれればと、背筋が伸びる想いがします。 本日はWizardryを作り、繋いでいく上での原点となるロバートさんとお話ができるということで、ぜひWizardryが生まれた物語をお聞きできればと思っています。よろしくお願いいたします。

僕にもできることがあるんじゃないか‐Wizardryはこうして生まれた

ロバート:僕たちがWizardryを作った1970年代は大学で初期段階のネットワークができ始めたころでした。当時、それはPLATOと呼ばれるシステムで動いていて、PLATOシステムのために開発されたプラズマ型のモニターや、新しいプログラムといった最先端の技術が含まれていました。そんなPLATOに夢中になった大学生は大勢いて、色んな大学のユーザーが数百人もネットワークに参加し、オンライン対戦などをしていました。現代のゲームと言われるものの中には、実はそこで原型が生まれたものが沢山あります。ただ、残念なことに現在のほとんどの人々はそれ知りません。PLATOで生まれたゲームの中には、Wizardryにインスピレーションを与えてくれたダンジョン探索的なゲームもいくつかありました。現在のゲームの元となるような様々なジャンルのゲームが生み出されていくムーブメントの中で、ある日「僕にもできることがあるんじゃないか」と思うようになりました。
  僕のアイディアは、当時個人用として普及し始めていた低スペックなパソコンで、自分が愛したPLATOで遊ばれているようなゲームを作れないかというものでした。そして、そのアイディアを実際にやってみようと思ったのが、僕のゲーム作りのきっかけでした。

金山:Wizardryがロバートさんとアンドリュー・グリーンバーグさんのお二人で作られたというのは有名な話だと思いますが、お二人は元々友人だったんでしょうか?

ロバート:元々は大親友ではなく名前と顔を知っている程度の知り合いでした。同じネットワークのユーザーで面識はあったけど、同じゲームをたまにやるくらい。ですが、僕が先ほど話した低スペックPC向けのダンジョン探索ゲームを作っていた際に偶然、アンディも同じようなアイディアでゲームを作っているということを知ったんです。
  当時自分は大学でゲームをやりすぎて停学になっていました(笑)
時間ができた僕は、アンディのところにいって、今作っているゲームについてお互いにアイディアを見せ合いました。
  そして「僕たちの作ろうとしているもののゴールは同じだ」ということに気づき、「これは絶対に、2人バラバラに同じようなものを別に作るより、協力して一つの作品を作った方がいい‼」とパートナーになることを決めました。
  当時自分が作っていたゲームのタイトルは『パラディン』というもの。でも、アンディと彼の友人達が名付けていたものを聞いたら、「絶対にそっちの方がいい!」と直感し、2人がこれから協力して作っていくゲームのタイトルを決めました。それが『Wizardry』です。聞いた瞬間に「負けた!」と思いました。今考えてもその直感は合っていましたね(笑)

Wizardry 1 to 5 used with permission from SirTech Entertainment Corp. All rights reserved.

金山:お二人は住んでいるところが近かったんですか?

ロバート:僕たちが大学時代に住んでいたのはイサカという街でした。
  イサカはニューヨーク州の真ん中あたりにある人口2万人くらいの街です。コーネル大学があることで有名ですが、他のどこの都市に行くにも時間が掛かる、田舎の中の都会みたいな場所でした。
  ニューヨークというと都会のイメージがあるかもしれませんが、マンハッタン以外は牧場なども多くある土地です。
  僕は大学を停学になった時は地元に帰っていたんですが、地元もイサカから3時間くらいの距離でしたので毎週末に3時間車を走らせ、アンディのところに通ってゲーム作りをしていました。

金山:そうやって、お二人でゲームを作り始めた訳ですね。ゲーム作りはどういった環境だったのでしょうか?

ロバート:元々僕たちのゲーム作りは何もないところから生まれてきました。二人と、あとは手伝ってくれたり、感想を言ってくれる友達が居たくらいで、あの頃は何もないところからでもゲームが作れる時代だったんです。

金山:役割はどういった分担だったのでしょうか?

ロバート: 最初のシナリオとディティールのデザインはアンディでした。その横で自分はプログラミングをやっていました。ロゴデザイン、ドラゴンの文様、マニュアルに出てくる絵はアンディの友達が描いてくれました。その友達は、今は有名なアーティストになっていますよ。ゲームに出てくるクリーチャーの絵は自分がやっていましたけど、自分はアーティストではないのであまり気に入っていません(笑)
  当時は色を塗るような簡単なプログラムすらなく、キーボードで各ピクセルを動かしていくしかなかったので、一枚作るのにもすごい手間がかかり、細かい絵も描けませんでした。
  今はアルゴリズムにパラメーターを投げるだけで実現できるようなことも増えて、大分やりやすくなったでしょうね。その分、新しく手を掛けないといけない部分も増えて、別の部分が大変になっているのだと思いますが。

Wizardry 1 to 5 used with permission from SirTech Entertainment Corp. All rights reserved.
誰もいない部屋で叫んでみる‐呪文をいかに創造するか

金山:Wizardryといえば、呪文の特徴的な響きが印象に残りますが、あれはどのように考えついたのでしょうか

ロバート:随分前のことなので、もうはっきり覚えている訳ではありませんが、元々のアイディアはアンディとその友人たちが考えていました。ウェールズ語を参考にしていたので、あれは偽ウェールズ語と言ってもいいかもしれません(笑)
  意識したのは、少し文法的な響きを持たせたかったことでした。ハリト、マハリト、ラハリトといったようにね。ただ、容量の関係で彼らの考えた呪文名をそのまま反映させることはできず、プログラムの都合で僕が変えた部分もあります。
  本当は、呪文の文法的な意味の部分に機能を持たせて、それを組み合わせて呪文の効果を呼び出すような仕組みにしたかったのですが、うまいプログラムが見つからず、結局一つ一つの呪文に対応した効果を設定してそれを呼び出す形になりました。

金山:日本ではトゥルーワードと呼ばれる、竹内誠さんという作家さんの考えた二次創作的な設定がよく知られています。簡単に説明するとハリトであればHA(発動)LI(火)TO(風・嵐)というように、言葉一つ一つに効果があって、それが組み合わさって一つの呪文ができるという仕組みですね。ここにMA(広く・遠く)やLA(大きい)といったトゥルー・ワードが組み合わさって、効果が強くなっていきます。

ロバート:これはすごく面白いアイディアですね(笑)
  私たちは、正直ここまでは考えていなかったと思います。私たちが考えたときよりも余程深く考え、時間をかけているんじゃないでしょうか? 雲の形を見て意味を見出すようなものかもしれないですが、あまりにもよく出来ている考察なので、
  「おお、ようやく僕たちの作った意味を解き明かしたか!」 と言ってしまいたいくらいです(笑) 私たちはここまで深く考えていませんでしたよ(笑)

金山:トゥルーワードは、私たちも研究して、勉強させて頂きました。Wizardryファンは世界中にいると思いますが、日本のファンはWizardryをただ受け取るだけではなく、自分たちでも作り出していったということが特徴的だと思います。だからこそ、そういった中で自分たちが公式なものを作り出すことにはプレッシャーを感じます。特に、Daphneにシリーズで待望だった1-5の呪文を実装するに当たり、元々1-5にない呪文については似た雰囲気のものを自分たちで考えないといけませんでした。そこで、どう考えたらよいかは正直悩みました。

ロバート:さきほどのトゥルーワードがとてもよくできていたので、参考にするのは勿論よいと思います。ただ、一番大事なのは「声に出してカッコいいか」だと思います。誰もいない部屋で叫んでみて、しっくりくるならそれはいい呪文であって、最後は自分の感覚を信じるしかないと思います。僕たちもよく夜中に、この呪文の響きはかっこいいか、声に出して叫んで確かめていましたよ(笑)

金山:ありがとうございます。
  幸い、今回のプロジェクトはリモートワーク主体なので会社にいるより呪文をひとりで叫んでみるには良い環境かもしれません。
  やってみようと思います(笑)

Wizardryが大成功した要因は3つあります‐ゲーム作りとビジネスの関係

金山:初代『Wizardry』はお二人を中心に、自分たちの感覚を信じて作られたのだと思いますが、当時の手ごたえはいかがだったでしょうか?

ロバート:実際にゲームとしてリリースしようとしたときも、「売れる」とは別に考えてはいませんでした。あくまでも、自分達がノリで作ったものを、人にも遊んでもらいたい、という程度でした。まずはベータ版を作ってみて、周りに買ってくれる人がいたので次は展示会に参加してみました。
  100本のサンプルを手作業で一枚ずつフロッピーディスクに焼いて製作し、数日間で完売できたらいいけど、たぶん売れ残るだろうな、ぐらいに思っていましたが、なんと展示会の初日で全て売れてしまいました。販売価格は40ドルで、当時としてはかなりの金額です。
  その時初めて、「これは売れるものなのかもしれない」と胸が高まりました。アンディは学生ローンがかなりあって、いつかそれが返せれば御の字、と言っていたけれど、その後販売を本格化させたところ、彼のローンは1カ月後には完済できていました。
  最初に売れた数千本は二人の手作業でいくつかの工程を踏んでフロッピーディスクに書き込み、製作していました。その後、1台のマシンの中でゲームの完全データを焼けるようになって、少し時間が短縮できるようになり、次はディスクを自動で入れてくれるシステムを導入してよりスムーズになりました。現代のように工場に生産を丸投げするといったことはできず、自分たちで作るしかなかったんです。

金山:なるほど、一枚一枚手作りだったんですね。
  その時代、数多くのゲームが生まれたとお伺いしましたが、その中でもなぜWizardryは大成功できたのでしょうか。

ロバート:今思うと要因は3点あります。1点目はもちろん、いいゲームだったということ。ダメなゲームだったら誰も買ってくれませんし、商品としてよかったという点はあると思います。これにもちょっとした理由があります。
  70年代にもゲームはいくつも出回っていたんですが、あの頃はそれぞれが自分の作りたいものを個人で作っている時代でした。だから、たった二人とはいえ、開発チームと言えるものは周囲にはなく、もしかしたら世界でも初めてだったんじゃないかと思います。アンディと僕、2人の力を合わせたから、周りよりもいいものが作れました。
  二つ目は、先ほども話した「Wizardry」というタイトルがすごくよかったということ。アンディ達が考え、僕もそれだ! と思った。このタイトルの力はすごく大きかったと思います。
  そして最後は、とても美しい箱、パッケージですね、に入れて売り出したということ。これは僕らのゲーム作りにビジネス面で協力してくれていたサーテック社のアイディアでした。あの当時のゲームは棚に並んでいる時も、ジップロックのパックにディスクと説明の書かれた紙が1枚が入っているだけで売られていました。そんな中、Wizardryだけが美しいパッケージに入っていて、とても目立っていたし、素晴らしい商品に見えた。あれはヒットした理由の一つだと思います。マニュアルが厚すぎてジップロックに入らなかっただけかもしれないけど(笑) 恐らく初めて箱に入れて売られたゲームだったんじゃないかな。

金山:それは歴史的な出来事ですね。優れたゲームとビジネス的な視点が組み合わさっていたんですね。

ロバート:これだけ聞くとすごい大成功とか天才的という印象になりやすいかもしれないですね。でも、それは成功者バイアスというものもあって、同じくらい天才で、だけど成功しなかったという人がいくらでもいたんだと思います。でもそれはどこにも記録に残らないから、ここだけ印象に残ってしまうのかもしれない。
  でも、僕らもこれでいけると確信を持ってやった訳ではなくて、何とかなるという思いで試しにやってみただけでした。いけるか、いけないか試してみるしかない、挑戦してみるしかない、という気持ちでできたことでした。
※成功者バイアスとは
認知心理学の用語であり、失敗した対象を見ずに、成功した(≒生存した)対象のみを基準に判断をしてしまうこと。

Wizardry 1 to 5 used with permission from SirTech Entertainment Corp. All rights reserved.
挑戦をしたから認められた‐新しい作品へのエール

金山:ロバートさんの経歴を拝見しますと、ゲーム作りだけではなく、いつも業界と呼べるものができる前から挑戦されていますよね。

ロバート:確かに新しい挑戦ばかりだったので苦労したこともありました。アニメに英語字幕を付けてリリースするために新しく立ち上げたAnimEigoでも最初に日本の会社とコラボしようとしたときは誰も話を聞いてくれませんでした。当時は日本のアニメに英語の字幕をつけて、それがビジネスになるなんて、誰も思っていない時代でした。
  僕が日本でお世話になった、当時ガイナックスの社長だった岡田斗司夫さんにある日「誰も前向きに取り合ってくれないんだ」と話したときに、岡田さんが「みんな、最初のペンギンにはなりたがらない。2番目のポジションになりたいんだよ」と言っていたことをよく覚えています。僕らが最初にコラボ出来たアニメはフジサンケイグループが販売していた『メタルスキンパニック MADOX-01』という作品でした。そこから、この作品の製作を行っていたアートミックと縁ができたことで『ライディング・ビーン』や『バブルガムクライシス』の仕事も受けることができました。それらの取引がきっかけとなり、その後は岡田さんの言った通り、様々な日本のアニメ会社とコラボできるようになりました。前例ができて、成功のデータが揃い始めたから取り合ってもらえるようになったんだと思います。
  とにかく最初の一歩をやるときは、失敗するかもしれないからみんな及び腰になる。それは普通の会社なら当然のことだけれど、自分は友人たちとふざけているうちに気付いたら本気になって、試しにやってみようと動いてみることができました。
  アンディと一緒に始めたWizardryも、ロー・アダムスと一緒に始めたアニメの英語字幕版の販売も、最初はだれも成功するだなんて思っていませんでした。でも、やってみたら結果的にうまくいって、一番最初に始めた人間だったから認められました。

金山:そうやって、冗談のようなことを本気で一緒に始められる友人がいたから成功されたんですね。

ロバート:そうかもしれません。
  自分は人と話すのは嫌いではないけれど、沢山の友人がいるというよりは数人の親友がいるタイプで、アンディやローはその一人でした。

金山:お二人とは、どうして親友になれたのですか?

ロバート:彼らと自分とを強く結びつけた趣味は読書でした。自分は活字中毒と言ってもいい人間だと思います。本を読んでないと落ち着かない。アンディも相当な読書家で彼の自宅は図書館と言ってもいいくらいの本がありました。
  今も、週に何冊も読んでいますし、当時はその中でお互いにおすすめの本を段ボールに詰めて送り合ったりしていました。
  ローの読書量も大変なもので、マニアックな知識をいくつも持っていました。そんな関係だから、彼らと二人でいるときは、話が尽きなくて、作品の話から、くだらない冗談、哲学的な視線についてまで何でも話すことができました。そういう意味では、深い絆を表していたと思います。

金山:ゲームやアニメの印象が強いですが、原点は読書だったんですね。
  幼い頃から本がお好きだったんですか?

ロバート:自分の家は4人兄妹で、母親は弟や妹たちの相手を忙しくこなしていました。そんな中で一番年長の自分は本さえもらえれば大人しくしていたので、母親はたくさんの本を与えてくれました。食卓でも本を読むことを許したのは失敗だったと母は言っていましたけれど、おかげで色んなことに興味を持つことができました。アンディやローも興味の幅は同じような感じで、アニメやゲームだけでなく、本や雑誌、アメコミなんかも含めて幅広く楽しんでいました。そういったことが、ゲームを作るのに役立っているのかもしれないですね。

金山:素晴らしいですね。お互い博識で、まじめな話からくだらないことまで一緒に出来る関係というのは羨ましいです。

ロバート:実際僕は、人を楽しませるのが好きで子どものころはスタンドアップコメディアンになりたいと思っていたこともありました。残念ながらそれは特別な才能が必要なことだったけれど、結婚式みたいなイベントごとはアイディアを出し合ってくだらないことを色々としていましたよ。

金山:それはどういった結婚式だったんでしょうか?

ロバート:ゲームデザイン的要素を取り入れた、インタラクティブ・ウエディングというもの(笑)
  普通の結婚式と言えば、段取りは全て決まっているものですが、結婚式の参加者に僕たちが何をするか投票で決めてもらったんです(笑)
  結婚式は日本で行ったのでベースは日本式でしたが、例えば、新郎新婦の入場に関して言えば、1つ目が僕が先で妻が後を歩く普通のタイプ。2つ目は現代的な世相を反映して二人が並んで入場するタイプ。そして3つめは「現実」を表すものとして花嫁が最初に現れて次に彼女の男が来るというタイプで、3つの選択肢の中からゲストに選んでもらいました。どの選択肢が選ばれても面白いように準備はしていましたが、ゲームデザイナーとして、ゲストが3つ目を選ぶことはわかっていました。そして実際、私は用意していた縄で縛られ、妻が結婚するために私を祭壇に引きずり込むという形で入場しました(笑)。
  他には例えばケーキカットをどうやるか、の投票。
  ①のこぎり②レプリカの日本刀③空手チョップ④その全てでどれにしますか、と聞いてみたら、予想はしていましたが④が一位になって、僕たちは大きなケーキをノコギリで切って刀で切って、最後に空手チョップをすることになりました。
  ケーキはめちゃめちゃになってしまいましたがきちんと美味しくいただきましたよ(笑)

金山:それは出席された方にとっては忘れられないものになったでしょうね。

ロバート:結婚式には乾杯の音頭を取ってくれた岡田さんを始め、日本の友人たちもたくさん来てくれました。ロバートらしい結婚式だったと言ってくれましたよ。

金山:日々そういう、いたずら心が頭の中にあるんですね。挑戦の気持ちと、博識さと、いたずら心と。
  Wizardryにも、すごくいたずら心が込められていますよね。いたずら心やユーモアがふんだんに盛り込まれているのはどうしてなんだろうと思っていましたが、その理由がロバートさんにお会いしてよくわかりました(笑)
  世界的大ヒットと呼ばれるものには必ずユーモアが入っていると私は感じているのですが、Wizardryが世界中で愛された理由の一端が分かった気がします。

ロバート:とはいえ、繰り返しになってしまうけれど、これが成功の条件という訳ではないと思います。自分たちは運が良くて、振り返ればこうだったというだけでした。ただ、それも試しにやってみたからとは言えるかもしれません。

金山:確かに挑戦しなければ、その結果を見ることもできないと思います。自分たちはWizardryのIPを使わせて頂くので、ゼロから生み出すという訳ではありません。ですが、3DダンジョンRPGをスマートフォン向けの運用タイトルとして成功させた例はなく、その部分は挑戦だと思っています。また、ジャンルだけでなく、ゲームの内容的にも随所で新しい挑戦をしています。
  実際、ロバートさんには開発中のDaphneをテストプレイして頂きましたが、率直にいかがでしたでしょうか?

ロバート:オリジナルの持っていた多くの魅力を捉えてくれているところが気に入っています。特に、「リスクを冒して冒険を続けるべきか、安全策を取って街に戻るべきか……」常に悩まされるところが素晴らしいですね。同時に、ゲームに新たな深みを与えるために加えられた、新しい機能も楽しめました。ついついやり込んでしまって、結局、何ページにも渡るコメントをDrecomにお送りすることになりました。昔は、Wizardryの改善点を誰かが見つけても、それを実際に直すために手を動かすのはほとんど私でした。でも今回、口を出して好きなことを言えたのは私でした!

金山:元々は簡単に感想を頂くだけの予定だったのですが、本当に詳細なご意見を頂くことができて、とても助かりました。ゲーム開発者視点の具体的なご提案から、バグ報告まで……。ロバート様のご意見も、ゲームの中に取り入れさせて頂いております。もちろん、バグも修正しています(笑)。また是非プレイしてください。
  本日は、貴重なお話ありがとうございました。

握手を交わすロバート氏と金山

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